1.はじめに
東日本大震災の発生から半年が過ぎた。しかし、大津波や原発事故が地域社会や住民にもたらした被害はきわめて甚大かつ深刻で、復興までには相当の年月が必要だと思われる。つらく悲しい非日常が続く中で、ここで取り上げる個人情報保護を含めて、制度というもの無力さを痛感する。被災者の痛みや苦しみを前にして、何もすることができないからである。
非常時を想定し、そのときの対処の方針や方法を定めた制度もある。しかし、多くの制度は通常時を前提に定められている。個人情報保護制度も例外ではなく、大津波や原発事故の発生は想定の範囲外だった。確かに、個人情報保護制度の中にも「緊急やむを得ない」事態を想定し、その場合の個人情報の取り扱い方を定めた条文はある。ただ、そこから個人情報をどのように活用して被災者の窮状を救うのかが、見えてくるわけではない。
「緊急やむを得ない」という規定の趣旨は、むしろ非常時におけるルール(制限)の解除のようなものだ。もはや待ったなしの事態なので、被災者支援に必要ならば何をやってもいい。そのように、この規定を読み解くとわかりやすい。個人情報保護制度に限らず、個人の権利利益を守るという現場の判断があれば、非常時には、制度を守らなくても構わない場合がある。それどころか、後述する過剰反応のように、制度にこだわることが逆に、被災者の権利利益を脅かすことすらある。
しかし、この「何でもあり」の状態がいつまでも続くわけではない。被災地が非日常から日常にもどっていくのと同様に、個人情報保護制度も徐々に非常時の例外措置を解除し、本来の姿を取り戻さなければならない。今がその時期かどうかは微妙だが、いずれ来るべき日常をのぞみつつ、大規模災害と個人情報保護制度との関係について、これまで考えてきたことを以下にまとめてみた。
⇒詳細は『IP』24号(第一法規)2011年11月発行