NPO法人「ぐらす・かわさき」のニュースレターに書いた文章です。
きたる11月6日、ぐらす・かわさきの設立10周年を記念した講演会を開催します。講師は『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)などのベストセラーもある島田裕巳さんです。講演のタイトルは「さよなら無縁社会―寄付で縁をつくる」としました。「円」ではなく「縁」です。そして、そこがとても大切なのです。
10年前、ぐらすレターの創刊号だったと思います。立ち上げたばかりのぐらす・かわさきのキーワード「つながる」について、簡単な文章を書いた記憶があります。設立者の一人として、地域社会で暮らし、働く人が、ぐらす・かわさきという場を通じて出会い、さまざまな形でつながっていけるといいなあとの思いがありました。
あれから10年、果たして、私たちは設立時の思いを実現することができたのでしょうか。行政からの受託事業などの資金獲得に追われ、ややもすると「縁」よりも「円」を重視することが少なくなかったかも…と、最近、激しく自省しています。
中間支援組織としてさまざまな「縁」を生み出していくため、スタッフの人件費など「円」を獲得することは必要不可欠です。しかし、「円」は手段であって目的ではありません。目的は地域社会に多様な「縁」を生み出すことなのです。記念講演会のタイトルには、「人と人とをつなぐ」というぐらす・かわさきの原点を、もう一度見つめ直したいという意味を込めました。
もちろん、ぐらす・かわさきの10年の活動が「縁」を生み出してこなかったわけではありません。「遊友ひろば」という場所を通じて、ぐらす・かわさきがなければ出会えなかった人が出会い、つながってきました。他の事業やイベントを通じても、地域社会の中にそれなりの「縁」を生み出してきたとの自負もあります。そうした多様な「つながり」は、この10年間の貴重な財産です。
この「縁」を生み出したのが原田さんの寄付でした。「寄付で縁をつくる」というのは単なる願望ではなく、他でもないぐらす・かわさきが実際に経験してきた物語です。そして、いま、同じような物語をもっとたくさん生み出したいと考えています。それが「市民ファンド」の創設です。
「市民ファンド」とは怪しげな投資話ではありません。すごくまじめな理想をもっています。「新しい価値の創造や社会的課題の解決のために、市民が主体的に設置・運営し、市民からの寄付を中心に、市民の活動に助成する民間の仕組み」、それが市民ファンドです。これは、ぐらす・かわさきもメンバーに入っている市民ファンド連絡会による定義です。
この定義にきっぱりと表現されていることは、行政からの補助や受託に依存するのではなく、市民が主体になって資金を確保、運営していくという気概です。これを非現実的な強がりだと笑う人もいるでしょう。でも、自分の周囲を見渡すと、寄付で「縁」をつくり、「縁」を通じて様々な問題解決を成し遂げた市民活動の例は少なくありません。
高い理想と気概をもって、これからの10年を歩んでいきましょう!