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旭川医科大学 2017年度AO入試

【解答例】

問1 表現のまずさを直してもきりがない。肝心なのは内容であり、それを磨くことである。(39字)

問2 何がいい文章かを考えるきっかけになったのは、子どものときの経験である。私は病気をして、学校を10か月欠席した。その直前に両親は別れ、家は貧乏でお金がなかった。医者には一度行ったが、薬を買えずに、ただ寝ながら自然に治るのを願っていた。母は薬ではなく古本を買ってきて、病気で寝ている私の枕元に置くことがあった。
そのうちの二冊がきっかけである。一冊は尾崎一雄の『暢気眼鏡』で、もう一冊は吉田紘二郎の『武蔵野記』である。前者の「父祖の地」という文章には、医者も薬も断って「死ぬときは死ぬ」と笑って死んでいったおばあさんの話があった。後者には「世捨人の生活というものはわたくしたちが想像しているよりも忙しいものであったかも知れない。生きている間に、一筋に自分の仕事に精進したいために世を避けたのであって、更に一層痛切に骨身を削り続けたのであろう」という記述があった。
病気になり、ただ寝ているだけの私は、おばあさんの生き方に元気をもらった気がした。また、世捨て人を自分に重ね合わせて、自分が精進したい仕事のことばかり考えていた。この二冊の古本が手元に残っている。鉛筆で奥付けの定価と以前の持ち主の名前が消してある。これは私の本であり、値段は自分でつけるべきことを母は伝えたかったのだろう。自分自身が読み取り、感じ取り、大切だと思ったことを自由に書くこと、それが、いい文章の基本にあることを教えられた気がする。(597字)

【解説】
2016年度入試に引き続き、論文とは何かを考えさせる出題です。キーワードは「推敲」です。字句や文章を十分に吟味して練り直すことを意味します。
「推敲」のポイントは課題文の最後の段落に列挙されています。いずれも表現面での「推敲」です。問2が求める「推敲」は、これらを参考にして、「表現のまずいところ」を訂正するだけで十分でしょうか?それでは国語の試験であり、論文の試験としてはやや物足りない印象を受けます。
ヒントになるのが、「推敲のしがいがあるのは、あるていどものになりそうな作品」という冒頭の段落の記述です。「ものになる」とは見込みがあるということであり、表現だけでなく内容を合わせた評価や期待であるように思えます。それを裏づけるのが問1の「〔悪文例⑤〕の作者が現在文筆家である」との設定です。これを通じて、表現は悪文であるけれども、内容は見込みがあった…ことを引き出す役割を果たすのが問1です。読み手に伝えたかったことは〔表現<内容〕であり、これを踏まえた記述であれば、どのような文章・表現であっても正解です。〔表現<内容〕なのですから…
以上のことから、問2が求める「推敲」は表現+αであることがわかります。もちろん+αは内容ですが、もう一歩踏み込んで表現するならば、それは視点や考察であり、自己の読書体験に対する課題発見でもあります。その鋭さや豊かさが「ものになる」という意味です。これを引き出し磨いてあげることが問2の趣旨であり、本来あるべき「推敲」なのです。